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1 はじめに
私は後期セメスターで前期とは大きく内容を変え音楽と体の関係性ということをテーマにしました。一言に音楽といっても非常に様々なものが存在します。音楽を聞くことは多くの人が日常的にする行為であり、また街を歩いていても至るところから聞こえてきます。そこで今回は数年前に流行した癒しの音楽、ヒーリングミュージックというものを取り上げ、音楽が持つとされる人間への癒しの効果を糸口にして、音楽と体の関係性というものを探りました。そして音楽と身体の関係から,音楽が秘めている大きな可能性について考えていきます。
2 癒し
2−1癒しの音楽とは
癒しの音楽とは、「現代用語の基礎知識」によれば「音楽療法的に日常生活で音楽を活用しようとする動きに対応して、レコード業界がつくりだした気持ちの休まる音楽の呼称。クラシックやロック、ジャズ、民族音楽なども含めたイージー・リスニング・ミュージック概念の一種。くつろぎの音楽のイメージを拡大したもの」とされています。次に癒し音楽の歴史を見てみました。2000年に出版された「癒しの音楽」によると癒し音楽は、86年に打ち上げられた旧ソ連の宇宙ステーション『ミール』の乗組員が、長い宇宙生活でストレスがたまらないようにと作られたのが始まりといわれています。旧ソ連の宇宙開発局が旧東独のレコード会社に発注したのです。その後、アイルランド出身のエンヤ、アメリカのジョージ・ウィンストンなどというヒーリング専門の音楽家が登場します。欧米から伝播する形で、日本でも86年に第1次「ヒーリングブーム」が到来しました。日本のビジネスマンの栄養剤「リゲイン」のテレビコマーシャル(注1)が流行った年でもあります。第1次ヒーリングブームの主体を占めたのは波の音や鳥の声、風の音でした。レコード店にもこの時代にヒーリングコーナーが登場しました。そして98年頃から第2次ヒーリングブームとして多くのヒーリングミュージックのCDが発売され、売れ行きも好調です。この第2次ヒーリングブームの時期に再び「リゲイン」のテレビコマーシャルが流行しました。このテレビコマーシャルに使われている坂本龍一
Energy flow」はインストルメンタル、つまり、歌のない曲でこの曲が第2次ヒーリングブームの代表的な曲と言えます。ロックやポップスを押しのけて、1967年のオリコン集計開始以来、初めて1位になりました。このようなヒーリングブームの背景にはやはりその時の経済情勢、社会情勢が関係しているとみられます。(資料)88年の第1次ブームの時は欧米から伝播する形でした。そしてバブル経済の一方で、環境問題が論じられ、「エコロジー」という言葉が注目され始めました。そして98年頃の第2次ブームの時は『不景気』『倒産』『リストラ』であります。これらの生活不安に悩む現代人が癒しを求めました。
2−2癒しとは(音楽が脳波に与える影響)
癒すとは「広辞苑」によれば「病気や傷をなおす。飢えや心の悩みなどを解消する」ことです。この癒された状態というのは脳波を使って証明することができます。脳波は,周波数の早い順にベータ波(β波),アルファー波(α波),シータ波(θ波),デルタ波(δ波)という4つのタイプに分類されていいます。脳から出ている脳波はその心身状態によって異なり、とくにリラックスした心地よい気持ちでいる時の脳波がα波です。α波が出ている状態がリラックスし癒されている状態であるといえます。
角田忠信が1978年に発表した「日本人の脳」によると私達日本人は非常に左脳をよく使っていて、左脳では言葉、計算、鳥などの動物の声を聞いています。右脳は主に音楽を聞いている時に使っているとされています。西欧人も日本人も右脳で音楽を聴いており,このために右脳が音楽脳と言われています。左脳を多く使っている日本人にとって,右脳を活性化させ左脳を休ませることが,音楽のもつ大きな効用です。左脳が疲労している時には右脳を使ってバランスをとることによって疲れがとれた感じがするという仕組みです。このことから音楽を聞き右脳を動かすことが癒しにとって有効なのです。特に西欧人と日本人は脳の使う部分が異なり、日本人は左脳をとてもよく使っている状態になっています。(図1)
3 ゆらぎ
3−1ゆらぎとは
人間には快いと感じる感覚があります。そよ風や小川のせせらぎ,風の強くなったり,弱くなったりする自然のゆらぎ,そして音楽のメロディーのゆらぎなどです。ゆらぎとは「広辞苑」によれば「大まかに見ると一定であって細かく見ると平均値前後で絶えず変動している現象」を意味します。水の流れや体温、脈拍などの生理、
社会現象一般に至るまでみな ゆらいでおり決まった値を持つ事はありません。ゆらぎの種類は物理学的に3種類に分けられています。(図2)白色ゆらぎは予測不可能な現象(音)ノイズなどで乱雑な状態です。1/f^2(fの2乗)(注2)ゆらぎは予測可能な現象(音)で規則的で整然とした状態です。1/fゆらぎは人の脳波、心拍の周期などで、ある程度予測不可能で、かつある程度予測可能という不思議なゆらぎ方です。そしてI/fゆらぎは非常に広範囲の分野において重要なゆらぎであるということがわかっています。1/fゆらぎは、心拍の周期、眼球の動きというように生体と1/fゆらぎは非常に関係が深く、穏やかなやすらぎをあたえてくれるのです。
3−2 1/fゆらぎについて
1/f ゆらぎは,変化が激しすぎも少なすぎもせず,適度な刺激量の時間的変化がある場合に生じます。私達はこの適度な変化に心地よさを感じ、癒しを感じるのです。私達の感覚は、ある程度その展開を予測できるが、詳細までは正確に把握することができないので、その変化に対して、ある程度慣れ、安心感を抱くが、予測できない変化も含まれるので完全に慣れることはなく退屈、つまらないという印象を抱くことはありません。1/fゆらぎの音楽とは、メロディが1/fゆらぎしていて、「期待性」と「意外性」とが合わさった、適度な規則性と適度な変化のバランスがとれた、音楽のことです。1/fゆらぎを持った音楽が癒しの音楽につながるのです。
4音楽療法について
4−1音楽療法
様々な芸術の中でも、音楽ほど直接的に内面に訴えかけるものはないと思われます。音楽の生理的な影響(血圧,心拍,不快感,痛みなど)は、身体に影響を与えます。刺激的な音楽は心身ともに興奮させ、鎮静的な音楽は心身の興奮や苛立ちを鎮める作用があります。また、音楽により特定の記憶や思い出が回想され、交流のきっかけを作ります。これは、高齢者の音楽療法の中では非常な重要な役割を果たしています。その他の音楽の効果として、気分転換,ストレス発散,自主性を促す,交流を円滑にする,引きこもりの予防、うつや問題行動の軽減などがあげられます。音楽療法の中で「同質の原理」というものを用いて音楽を提供していく事があります。雨が降ったりすると憂鬱な気分になります。そのような場合には、同じ気分に近い少し暗めの音楽を探して使用し、少しずつ明るめの曲を提供していく事で気分が快方へと向かっていきます。このように」して音楽が治療に使われています。
4−2音楽療法の歴史
近代の音楽療法が始まったのは、20世紀初頭のアメリカで発祥しました。1995年に出版された「音楽療法の基礎」によると音楽療法が科学的に明らかになってきたのは、第2次世界大戦を経験した戦争帰還兵が戦争ストレスを浴び心身症的不健康に悩まされていた時に、どのような医療治療でも回復できず、音楽療法のみ治療できたことから始まったとされています。なお日本では1985年、日本バイオミュージック研究会が発足し(現日本バイオミュージック学会)現在に至るまで、様々な病気の人たちに音楽療法を試行し研究してきましたが、音楽の効果は確実に認められつつあります。もちろん、音楽だけで病気が治る訳ではないですが、音楽は他の治療法の効果を増し、また療養生活を楽にする効果があるのです。
疾病に対する音楽効果を確実に証明するためには,人間のリラックス度をまず数値化することが必要です。1/f ゆらぎは非常に広範囲であり,いろいろな個性をもったものが含まれているので,音楽療法を行う場合の基本として,疾病と曲との関係を整理する必要があります。音楽を聴くことでその疾病が治ったのかどうか,他のファクターとの関係で偶然に治ったのかどうか,統計的な因果関係を整理しておくことが大事になります。どういった音楽が1/f
ゆらぎで,どの音楽が1/f ゆらぎでないのかについて,データを蓄積し,明確にしていくことが大事です。それによって,音楽がより有効に活用されていくことになります。
5考察
人間は音や音楽を耳だけでなく身体で感じ取っていて、音楽は身体に何らかの刺激や影響をもたらす働きがある、といえます。そして音楽の持つ1/fゆらぎが身体に癒しの影響をもたらすことがわかりました。しかしこの1/fゆらぎは非常に広範囲にあるため、様々な曲にあてはまります。クラシックからロック、ポップスまで多岐にわたるため時と場合、聞く人の状態、好みによってはたとえ1/fゆらぎを持つ曲を聴いたとしても、心地良いとは感じないかもしれません。そして心地よいと感じない場合は癒しの効果は得られません。音楽という記号はその聞き手の状態によっては受け取り方が違います。そのため結局はその時に自分が聞きたい音楽を聞くという普通の事が一番いいのではないでしょうか。さらにゆらぎの理論からいえることは音楽は感情を介さなくても直接身体に影響を与えることができるということです。言い換えると人間の心に訴える音楽の美的,感情的,娯楽的性質よりも,音の構成や音の動き,音の緩急強弱などの物理的性質の方がより身体の変化に関わっているということです。ゆらぎの理論から音楽が人に与える影響を証明することができました。そしてこのゆらぎを研究することによりさらなる音楽の可能性というのを発見できるのではないかと思いました。
6おわりに(今後の予定)
今後はゆらぎについての考察をさらに深めながら、人間にとっての音楽の効能、いろいろな場面で使われている音楽(環境音)の私達にもたらす効果などひきつづき音楽がもたらす効果をテーマとして調べていきたい。
祭りの音、ヒトラーの演説、BGM
(後期の他の人の発表の中でサウンドスケープのことについての発表に興味がわいたので少し調べてみたいです。)
注
(1) 栄養ドリンク剤の名称。88年には「24時間働けますか」というサラリーマンに向けたキャッチコピーでのコマーシャルで話題になった。
(2) 1/fのfはfrequencyのfで周波数を表す。
参考文献
(1)癒しの音楽 木下栄蔵 亀井栄吉著 久美株式会社 2000年 P12,75,76
(2)音楽療法の基礎 村井靖児 著 音楽の友社 1995年 P35〜41
(3)日本人の脳 角田忠信 著 大修館書店 1978年 P14,15
(4)ゆらぎの発想 武者利光 著 NHK出版 1998年
(5)現代用語の基礎知識 自由国民社 2002年 P1248
(6)広辞苑 岩波書店 第五版 1998年 P191,273
http://www2.mhlw.go.jp/info/hakusyo/980707/fig/fig79.htm
2003.1/31現在
http://www2.mhlw.go.jp/info/hakusyo/000627/fig/fig01.htm
2003.1/31現在
図1、図2また資料の一部は本からの直接コピーをとったためにこのファイルには含まれていません。
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